アフターコロナで求められる被雇用者像とは何か?【藤森かよこ】
2020年不穏な盛夏アフターコロナ対策本出版ラッシュ
■ タフなフリーランスが期待される被雇用者?
たとえば、遠藤功の『コロナ後に生き残る会社 食える仕事 稼げる働き方』(東洋衛材新報社、2020)は、緊急事態宣言やロックダウンによって、「移動蒸発」が起き、「需要蒸発」になり、ついには「雇用蒸発」もしくは「仕事蒸発」という「蒸発のドミノ倒し」が起きるが、蒸発した仕事は消えたままになり、コロナ前の状態に戻ることはなく、世界的に弱肉強食が加速化すると宣告する。
加えて、遠藤は、コロナ後に評価される人材の前提条件は「個の自立」であると指摘する。具体的には、「自己管理ができる」こと、「指示待ちではない」こと、「自己研鑽を続けることができる」こと、「会社にしがみつかない」ことだ。
つまりは、会社から会社へと渡り歩ける実質的には一匹狼のフリーランスの優秀で向上心豊かなタフな被雇用者たれ、というわけだ。
故山本七平は、日本においては共同体(ゲマインシャフト)と機能利益集団(ゲゼルシャフト)が未分化になりやすいことを『日本人とは何か』(祥伝社、[1989]、2006)において指摘したが、もう自分の勤務先を運命共同体なんて勘違いするのはやめてくださいね、企業も社員には忠誠心ではなく成果を出せる能力しか求めていませんよ、ということだ。会社は株主と経営者のもので、社員のものではありませんよ、ということだ。すでに日本の大中企業の株主は外資が占めている。
■ 幅広く深い教養を持つことが期待される被雇用者?
遠藤の指摘した「自己研鑽を続けることができる」というコロナ後の企業風土において期待される被雇用者の属性については、熊谷亮丸の『ポストコロナの経済学—8つの構造変化のなかで日本人はどう生きるべきか』(日経BP、2020)が、より参考になる。
熊谷は、ポストコロナ時代に個人がどう生きるかについて、「リベラルアーツを学ぶこと」と「経済や金融について知見を広めること」の重要性を指摘する。同時に「対人関係能力」と「創造性」と「物事を抽象化する能力」と「分野横断的な総合知」と「哲学や価値判断を行う能力」という5能力に磨きをかけることを薦める。
経済や金融について知見を広めることは、コロナ前時代でも、ビジネス界に身を置く人間ならば当然のことに思えるが、「リベラルアーツを学ぶこと」の指摘は興味深い。
なぜならば、1990年代あたりから、テレビや総合雑誌の座談会に登場するような経営者や企業幹部たちの顔つきが、あまり教養があるとは思えない風情になってきたと私が感じるからだ。
熊谷は、リベラルアーツ(教養教育)を縮小し実践教育を薦める文部科学省の姿勢について、「実用的な知識や技術はすぐに陳腐化する」と批判する。
確かに、幅広くも深い教養があるからこそ、その膨大な知識のネットワークからこそ、新しく有益な商品やサービスが生み出されるのであろう。熊谷が指摘するところの「対人関係能力」と「創造性」と「物事を抽象化する能力」と「分野横断的な総合知」と「哲学や価値判断を行う能力」を育むものは、確かにリベラルアーツだ。
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藤森かよこ
『馬鹿ブス貧乏で生きるしかないあなたに愛をこめて書いたので読んでください』
1600円+税